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ーー暗い。
何も見えない。
ここはどこだ?
手を伸ばしても虚空を掴み、落ちていく。
水面を漂っている感覚だけが体を包んでいる。
ふと、頭上から光が差し込んだ。
黒い壁が、光を浸食している。
光は範囲を狭めながら、私を照らしていた。
そういえば私は・・・・・・私は、何者だ?
「・・・・・・」
光の向こう側から、何か聞こえる。
聞こえない。
もっと大きな声で、叫んでくれ。
「ーー様、・・・・・・ヴィス様!」
今度は、少しだけ聞き取れた。
同時に、光の中に、誰かの顔が映る。
金髪の女と、黒髪の男だ。
私に向かって何か言っている。
でも、聞こえないんだ。
光に向かって這い上がろうと腕を伸ばすが、その途端、暗い底から無数の手が伸びてきた。
私の足を、胴体を、首を掴んで、さらに下へ引きずり込もうとする。
嫌だ。怖い。
上に行かせてくれ。
あの二人のところへーー!
ーーチカラニ飲ミ込マレルヨウデハ、外ヘハ出セナイ。
底から、低く恐ろしい声音が響く。
この手の主なのだろうか。
ならばどうか、私の願いを聞いてくれ。
ここから出してくれ。
ーー今ノオ前デハ、アノ方モ傷ツケル。己ヲ見ツケルマデ、ソウシテサマヨッテイロ。
それっきり、声は聞こえなくなった。
私は何度も腕を振り回し、狭まっていく光の方へ行こうともがく。
あの方とは誰だ。
私が誰を傷つけると言うんだ。
私はただ、守りたいだけなのに。
ーーあれ。何を、守りたいんだっけ・・・・・・?
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