170人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「嫌な夢でも見たのか?」
「なぜ?」
「泣いているから・・・・・・」
驚いて目元に触れると、確かに濡れていた。
母との思い出を夢に見たせいなのか、それとも母の涙につられたのか。
少しだけ、胸が苦しかった。
「久々に、母の夢を見たんだ。亡くなる少し前の日に、話していた夢」
「それは・・・・・・羨ましいな」
「羨ましい?」
レオナルドは大きく頷いた。
「だって、俺の夢に出てくる姫様は、いつも人狼に殺される。楽しかった思い出の方が多いはずなのに、一度だって彼女と過ごした楽しい日が、夢に出てきたことはない」
「それは・・・・・・」
「別に構わねえさ。"お前はまだ幸せな夢を見るには早い"って事だろう」
彼は朗らかに笑っているが、それに対して俺は気の利いた言葉一つかけてやれない。
ただ彼の肩に手を置いた。
「いつか、母の方から会いに来るよ」
「いいや、姫様はあれで結構サディストだったからな。俺が泣いて懇願するまで、会いに来ないさ」
「それは・・・・・・」
母には申し訳ないが、あの人は確かに人をからかって遊ぶのが好きだった。
品位を重んじる父王にすらいたずらを仕掛け、これまた上品に笑っているような人。
天真爛漫な母に、皆が癒されていた。
最初のコメントを投稿しよう!