第一章

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 差し出された手を振り払われても、不思議と嫌な気も起きなかった。  今も、卑下されるような視線で見下ろされていても、むしろ話しかけてもらえたことが嬉しかった。  俺も小走りで副団長の後を追い、団長の部屋へ足を踏み入れた。 「失礼いたします、団長」  部屋の最奥にある執務用の机に着き、何か書類を見ていた団長は、俺の顔を見ると笑みを浮かべた。 「やあ、ルーカス。よく来たね」 「そりゃ、任務とあればいつでも駆けつけますよ」 「さすが、私の懐刀だ」  俺が机に近づくと、団長は片手を伸ばし、俺の頬に触れた。頬から唇、髪をたどり、ハリス副団長とは違う慈愛に満ちた目で、俺を見てくれた。  この人は、俺自身が驚くくらい、俺を大切にしてくれている。  でも、俺に向けられているはずの眼差しは、俺を通して、別の誰かを見ているようだった。  それでもいい。俺は、この人に全てを捧げると決めたのだから。 「それで、俺の初任務は何でしょうか」  俺が訊ねると、団長は読んでいた書類を俺に差し出した。 「昨晩、ヴァンパイアとの戦闘があったのは知っているね?」 「はい。雑魚ばかりだったと聞いていますが」 「そう。その雑魚が逃げ込んだ場所に、王族が身を隠している地下王国への入り口があるようなんだ」  書類を持つ手が震えた。  ついにーーついに、俺の獲物の尻尾を掴んだ。
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