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差し出された手を振り払われても、不思議と嫌な気も起きなかった。
今も、卑下されるような視線で見下ろされていても、むしろ話しかけてもらえたことが嬉しかった。
俺も小走りで副団長の後を追い、団長の部屋へ足を踏み入れた。
「失礼いたします、団長」
部屋の最奥にある執務用の机に着き、何か書類を見ていた団長は、俺の顔を見ると笑みを浮かべた。
「やあ、ルーカス。よく来たね」
「そりゃ、任務とあればいつでも駆けつけますよ」
「さすが、私の懐刀だ」
俺が机に近づくと、団長は片手を伸ばし、俺の頬に触れた。頬から唇、髪をたどり、ハリス副団長とは違う慈愛に満ちた目で、俺を見てくれた。
この人は、俺自身が驚くくらい、俺を大切にしてくれている。
でも、俺に向けられているはずの眼差しは、俺を通して、別の誰かを見ているようだった。
それでもいい。俺は、この人に全てを捧げると決めたのだから。
「それで、俺の初任務は何でしょうか」
俺が訊ねると、団長は読んでいた書類を俺に差し出した。
「昨晩、ヴァンパイアとの戦闘があったのは知っているね?」
「はい。雑魚ばかりだったと聞いていますが」
「そう。その雑魚が逃げ込んだ場所に、王族が身を隠している地下王国への入り口があるようなんだ」
書類を持つ手が震えた。
ついにーーついに、俺の獲物の尻尾を掴んだ。
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