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「この王族は、何が得意なんですか?」
「こいつは・・・・・・」
「・・・・・・副団長?」
副団長は写真を指さしたまま、小さく震えていた。
彼に対して、常に冷静沈着なイメージを勝手に持っていたためか、意外だった。
怖がっているのか、憎んでいるのか。
彼が何を思ってこのヴァンパイアの顔を見ているか分からないが、一つだけ気づいた。
この王族の顔は、あの写真に写っていた黒髪の男とーーうり二つだ。
「副団長、この王族ヴァンパイアはーー」
「こいつが、俺の相棒を殺した。炎を操るのが得意な奴だから、気をつけろ」
「は・・・・・・」
何も聞くな。そう、副団長は言っているように見えた。
今彼が言ったことが確かなら、震えている理由は怒りと憎しみのせいだろう。
しかし、ろうそくの炎のように揺らめく眼差しは、愛憎がこもっているように感じられた。
***
「ーー我らが愛し子よ。その声高く天へ捧げ、伸ばした手は希望を掴もう。父母の躯を苗床に、その身は来る来世への羽とならん」
ずっと昔、まだ俺が幼い頃母が歌ってくれた子守歌を口ずさみ、俺は地下にある研究室でペンを走らせていた。
この歌を歌えば、お腹の子は嬉しそうに胎内を転がる。
小さな命がすくすくと育っている事を直に実感できるのは、母胎である俺の特権だった。
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