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エルヴィスが額を離すと、糸で引かれるように顔が前傾する。
一瞬だけ脳がふわりと揺れ、俺は額を抑えた。
「エルヴィス、あの狼はーー」
「マースの仕業なのは明白だ」
「・・・・・・そうだな」
狼を使ったのか、人狼を使ったのかは分からないが、何にせよ犠牲者は大勢でているに違いない。
「新たな敵は三頭犬と、日光照射機か・・・・・・」
人間は驚くべきスピードで、様々な物を作り上げてしまう。
その先にどんな犠牲があろうと、自分たちの勝利のためなら手段を選ばない。
俺たちにはできない芸当だ。
仲間を犠牲にして得た勝利に、何の意味があるんだ。
・・・・・・いいや、俺も仲間の犠牲の上で生かされている。
結局マースと同類なのだ。
「・・・・・・もう、皆を危険に晒せない」
「ライアン?」
「俺も外へ出て戦う。こんな武器に抵抗できるのは、俺たち王族ぐらいだ」
「それはそうだが、お前は大事な子を腹に宿しているんだぞ。戦わせるわけにはいかない」
何回も同じ事を言わせるなと、エルヴィスは顔をしかめる。
分かってる。分かっているのに、歯がゆくてたまらない。
このお腹の子も守りたい。でも、仲間たちも守りたい。
全てを守るなんて、俺にはとうていできないが、この手が届く範囲のものくらい、守れたっていいじゃないか。
「俺だって・・・・・・!」
少し興奮気味に怒鳴ると、エルヴィスの顔がさっと近づいてきた。
肉薄の唇が俺に重なり、喉元まで出掛かっていたヒステリックな言葉を、キスで塞がれた。
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