第一章

16/43

170人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
 エルヴィスが額を離すと、糸で引かれるように顔が前傾する。  一瞬だけ脳がふわりと揺れ、俺は額を抑えた。 「エルヴィス、あの狼はーー」 「マースの仕業なのは明白だ」 「・・・・・・そうだな」  狼を使ったのか、人狼を使ったのかは分からないが、何にせよ犠牲者は大勢でているに違いない。 「新たな敵は三頭犬と、日光照射機か・・・・・・」  人間は驚くべきスピードで、様々な物を作り上げてしまう。  その先にどんな犠牲があろうと、自分たちの勝利のためなら手段を選ばない。  俺たちにはできない芸当だ。  仲間を犠牲にして得た勝利に、何の意味があるんだ。  ・・・・・・いいや、俺も仲間の犠牲の上で生かされている。  結局マースと同類なのだ。 「・・・・・・もう、皆を危険に晒せない」 「ライアン?」 「俺も外へ出て戦う。こんな武器に抵抗できるのは、俺たち王族ぐらいだ」 「それはそうだが、お前は大事な子を腹に宿しているんだぞ。戦わせるわけにはいかない」  何回も同じ事を言わせるなと、エルヴィスは顔をしかめる。  分かってる。分かっているのに、歯がゆくてたまらない。  このお腹の子も守りたい。でも、仲間たちも守りたい。  全てを守るなんて、俺にはとうていできないが、この手が届く範囲のものくらい、守れたっていいじゃないか。 「俺だって・・・・・・!」  少し興奮気味に怒鳴ると、エルヴィスの顔がさっと近づいてきた。  肉薄の唇が俺に重なり、喉元まで出掛かっていたヒステリックな言葉を、キスで塞がれた。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

170人が本棚に入れています
本棚に追加