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熱気のごとく胸を渦巻いていた焦燥感が、霧散していくようだった。
ゆっくりと離れていく唇を惜しんでいると、エルヴィスが目を細め、俺を睨んだ。
「いい加減にしろ。同じ事で何度も悩むな」
「でも・・・・・・」
「皆それぞれ役割がある。お前にはお前の、配下には配下にしか出来ないことがある。出来なかったことを悔やむより、自分に出来ることを全うしろ」
俺に出来る事といえば、仲間を守ること。
本当に守りたいのであれば、俺が前線へ出て戦うのが最も良策だが、エルヴィスはそれを許さない。
個人に結界の効果を広げる事も出来ないしーー。
「お前は子を慈しみ、皆に笑顔を見せてやるだけでも充分なんだぞ、ライアン」
「そんなの、何の役にも立たない」
「お前は我々にとって宝だ。何にも代え難い、唯一の宝。そのお前が暗い表情では志気も下がる。ーーお腹の子も、心配するぞ」
エルヴィスの声に同調するように、俺のお腹の中で子供が何度も転がった。
何を訴えているのかまるで分からないが、なぜか元気づけられているようなーーそんな気がした。
「前線では俺が仲間を守る。お前は、ここにいる者たちを守ってくれ」
それでは、あなたのことは誰が守ればいい?
俺が横で守ってやれたら、どれほど気が休まることか。
「エルヴィス、俺・・・・・・」
愛しい人の頬に手を伸ばしたとき、見えない手に心臓を鷲掴みにされたような不安感が、突如わき上がった。
警笛を鳴らすように心臓が跳ね上がり、小刻みに体が震える。
「ライアン!? おい、大丈夫か!?」
「エ、エルヴィス・・・・・・っ」
俺が呻いたと同時に、王国内が振動した。
屋根から細かい塵が舞い落ち、俺たちに降りかかる。
察した。
これはーー。
「結界が攻撃されてる・・・・・・!」
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