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『ーー次のニュースです。昨夜、イタリア北部においてヴァンパイアと聖騎士団との大規模な戦闘が起きた模様です』
終戦記念公園の広場に設置された巨大スクリーンから、アナウンサーの強ばった声が流れてくる。
出勤を急いでいた人々も思わず足を止め、情報に聞き入っていた。
『幸い周囲に民家は無く、下水処理場があるのみでしたので、人的被害はなかったとのことです。戦闘終了後、現場にはローガン・ハリス副団長が到着し、事態の収拾をーー』
今や、ニュースの大部分は聖騎士団とヴァンパイアの話ばかりだ。
約一年半ほど前に、聖騎士団上層部が世界放送で明らかにした、ヴァンパイアとの戦争。
おとぎ話上の生物だと思われていた奴らの存在に、人間は震え上がった。
全ては、ヴァンパイアの頂点に君臨する化け物が舞い戻ってきたことから始まったそうだ。
奴らは人間社会にとけ込み、今もどこかから人間の生き血をすすろうと狙っているのかもしれない。
『ヴァンパイアは非常に危険です。国民のみなさんは、夜間の外出を控え、戸締まりに気をつけてください』
続報が入り次第伝えるという、おきまりの文句で締めくくったアナウンサーは、すでに次のニュース内容に移っていた。勿論、ヴァンパイアによる被害増加についてのニュース。
殺人事件はかすみ、最優先されるのはヴァンパイアに関連する情報だ。
人間こそ地上最強の生き物だと思われていたのに、王族ヴァンパイアなんて化け物が蘇ったせいで、世界は一変した。
人間はもう、精肉場へ出荷される日を恐れて待つ、牛の気分だ。
ヴァンパイアにあらがう事ができるのは、聖騎士団とーー俺くらいだろう。
興味もなくスクリーンを眺めていると、スマートフォン型の通信機が、入電を告げた。
緩慢な動作で通信に出ると、聞き慣れた声が俺を呼んだ。
『ルーカス』
「お疲れさまです、ハリス副団長」
『すぐ本部へ来い。お前に初任務だ』
「ーー了解」
とげとげしい話し方にも、もう慣れた。
俺は通信を切ると、呼び出された場所へ足を向けた。
だが、再びスクリーンを見上げる。
そこには、聖騎士団が血眼になって探している王族ヴァンパイア二体が映っていた。
銀髪の男と、黒髪の男。
俺は、スクリーン越しに優しげなまなざしを向けてくる黒髪の男の顔を凝視する。
「・・・・・・殺す」
この二体を殺すことが、俺の存在理由だ。
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