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屋敷内にあった眷属や配下たちの気配が消え失せ、数十分ほど腹を撫でて気持ちを落ち着かせていたが、
「・・・・・・?」
不意に、部屋の外に何かの気配を感じ取った。
覚えのない匂い。
絶え間なく襲う鈍痛に耐えながら、この部屋にある唯一の扉を睨んだ。
「誰だ。遠慮しないで、入っておいで」
すると、扉が重々しい音を立てて、ゆっくり開く。
俺は腹を守るように抱え、扉との間に出来た隙間を凝視する。
ゆったりとした足取りで室内に現れたのは、見覚えのない黒髪の男。
彼は薄汚れた外套を肩に掛け、俺を見据えていた。
「君はーー?」
誰だ、と問おうとした矢先だった。
男は外套を跳ね上げ、手にしていた片刃の剣を構えると、俺に向かって駆けだした。
長めの前髪の隙間から、俺たちと同じ紅の瞳が鋭く光る。
「覚悟しろ、ヴァンパイアの王」
眼前に迫る刃。
俺はーー。
***
ライアンを一人残し、私は眷属たちとともに地上へ出た。
雲の晴れた見事な夜空は、普段であればその美しさをゆっくりと堪能できたことだろう。
だが、今は夜空を愛でている暇はなかった。
普段は不可視の結界が、奴らの攻撃によって壁面を露わにしていた。
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