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ようやく私の元へ戻ってきて、あまつさえ世継ぎを身ごもっている最愛のパートナーを、再び敵の手に渡すわけがない。
といっても、この結界がある限り、奴らがライアンへたどり着くことはないだろう。
「・・・・・・絶対に、貴様には渡さない!」
臓腑の底から沸騰するように、怒りと闘志が頭頂までこみ上げる。血液内に溶けた殺気が私の体内を駆けめぐり、不思議と心地よかった。
体内に充満した全ての感情を吐き出すように、手に持った得物を横へ薙ぐと、氷の波が騎士団めがけて地面を這った。
さながら津波のようなスピードで攻撃したつもりだが、騎士団の一歩前に進み出たマースは、自身の得物である細剣で、氷の波を真っ二つに切り裂いた。
「殿下から血を頂いているというのに、あなたの攻撃はこの程度なのですか?」
「弱小組織の戦力を試す小手調べに決まっている」
「そうですか。では、こちらも新兵器を出すとしましょう」
マースが鋭く、短い口笛を吹き鳴らした。
すると、遠方から黒い波が重い音を立てて押し寄せてくる。
夜目の利く我々は、すぐにその正体に気づいた。
「三頭犬か」
デズモンドの記憶にあった、聖騎士団が作り出した悲劇の産物。
三つの首が接合している場所には、赤く点滅する機械が埋め込まれ、闇の中怪しく光っていた。
「その犬を作るのに、一体何人・・・・・・いや、何匹犠牲にした?」
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