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「来い、マース」
「言われずとも・・・・・・!」
人間離れした脚力で地面を蹴ったマースが、瞬時に私の前に迫る。
銀と氷がぶつかり、耳障りな金属音が一帯に響いた。
お互いが何度も斬撃を相殺し、隙を見て切り込む。
しかし、決定的な傷を与えることが出来ず、細かい切り傷が増えるだけだ。
斬り合いの合間に周囲に目を配ると、人狼やケルベロスを相手に、配下たちが苦戦していた。
配下たちは、私もしくは眷属であるデズモンドやカトリーヌの牙によってヴァンパイアとなった訳ではない。
私や眷属の血を飲んでヴァンパイアとなっているため、その分身体能力が劣っている。
それでも人狼との戦闘力は互角のはずなのに、一匹の人狼につき三人のヴァンパイアが立ち向かっても苦しんでいるのは、戦力格差を思い知らされるようだった。
「この三百年で、ヴァンパイアは弱体化したな。過去、支配していた生き物に苦戦を強いられる気分はどうだ?」
まるで俺の心を読んだようだった。
悔しいが、言い返す言葉が見つからない。
このままではーー。
「・・・・・・っ!? この匂いはーー!」
私の胸に敗北という言葉が浮かびかけた時、この場に香るはずのない人物の匂いが、ふわりと流れ込んだ。
マースも嗅ぎ取ったのか、恍惚とした表情を浮かべた。
「嗚呼、嗚呼・・・・・・! 待ちかねましたよ!」
目の前にマースがいるにも関わらず、私は背後を振り返る。
そんなはずはない。
あの子が戦場に出てくるはずが・・・・・・!
「ライアン・・・・・・!?」
ヴァンパイアしか通れないはずの結界。それを、電流をまとってくぐり抜けてきた黒髪の男の腕には、力なく空を仰ぐライアンの姿があった。
胸から腹部までは真っ赤に染まっていて、だらりと垂れ下がった腕からは、今もなお鮮血が滴っている。
「貴様ああああああ!」
私の中で何かが切れ、生まれて初めて理性が飛んだ。
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