170人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
***
俺めがけて突き出された白刃。
通常であれば簡単に避けられる速度なのに、妊娠してから体がひどく重く、動きづらかった。
それでも子供を守るため、最小限の動きで避けようとしたが、俺が避けるより先に剣先が喉のすぐ近くで停止した。
男は長く息を吐くと、俺を見下ろす目を細めた。
「あなたは殺すなと命令されている。おとなしく俺と来い」
「これは・・・・・・突然のお誘いだな。君にそんな命令を出したのは、もしかしてーー」
「マース・ブラックフォード聖騎士団長。あなたも知っているはずだ」
「やっぱり・・・・・・」
あの執念深さには感服する。
しかし、なぜこの男は結界を通り抜けられたのだろう。
ヴァンパイアしか通れないはずなのに。
「君、どうやって結界を通過した? ヴァンパイア以外は弾かれるはずだが?」
「俺は特別だから。団長のために存在する、切り札だと言われた。ーーそれでも、無傷では通れなかったが」
さすが王の張った結界は強い、という男の顔には、火傷があった。無理に結界を通ったせいで負ったものだろう。
恐らく、服で見えない場所にも火傷を負っているはずだ。
すでにただれた傷口の再生が始まっているが、俺たちに比べると治りは微々たるもの。
この様子だと、完全に治るには丸一日かかる。
おずおずと傷に手を伸ばすと、首に添えられた剣が、少しだけ肉に食い込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!