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「・・・・・・っ」
「動くとその首、切り落とす」
「俺を殺せば、君はマースに殺される」
「は?」
「まあ、俺が君に不利なことをしたら、この剣を薙げばいい」
男が剣を持つ手に力を込めたのがわかった。
首にチリチリと痛みが広がるが、俺は彼の首筋にそっと触れ、傷を癒す術式を施す。
亀の歩行のごとくのろかった治癒速度は格段に上がり、男の負っていた傷は全て癒えた。
男は俺から刃を引くと、困惑した顔で訊ねた。
「なんで敵の傷を治した?」
「怪我をしている人を助けるのは、当たり前だろ」
「人間は躊躇いなく殺すのに?」
彼の顔色が変わり、はっきりと憎悪が滲んでいた。
確かにヴァンパイアは人間の血を飲むが、この一年、俺の指揮下に下ったヴァンパイア達は、人間を襲ってはいない。
仲間内の血で喉を潤し、時には動物の血で飢えをしのいでいた。
そう、彼に説明したが、
「そんな話、信じられると思うか?」
やはり信じてもらえない。
人間の世界に流れたヴァンパイアに対する凶悪なイメージは、根深いようだ。
「信じてもらおうとは思わないが、本当のことだ。俺は生まれてから一度も人間の血を飲んだことはない。本当だよ」
「嘘だ」
「だから、信じるも信じないも君の勝手だよ」
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