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男の瞳が迷うように揺れる。
透き通った紅色の瞳は、明らかにヴァンパイアのものだった。
「君、もしかしてヴァンパイアの血が流れているんじゃないか?」
「この俺に、汚らわしいヴァンパイアの血が流れているはずないだろう!」
無造作に振るわれた剣が、俺の髪を数本切り払う。
「俺はヴァンパイアでもなければ人狼でも、人間でもない。ただ団長の為に尽くす、選ばれた存在だ」
この様子だと、本人も自分が何者なのか知らされていない。
・・・・・・違う。何者なのか悟られないよう、マースが刷り込んでいる。
外見はどう見てもヴァンパイア。でも本人がそれを認めようとしない。
「ーー君も、マースの実験による被害者か」
「どういう意味だ」
「気になるなら、君が惚れ込んでいる団長さんに聞くといいよ」
「聞く気なんかない。俺にとって、あの人の言葉が全てだ。だからーー」
闘気をまとった男は、得物を構えて俺に詰め寄った。
「団長の命令により、あなたを捕獲する。出来る限り傷は付けるなと言われているから、無駄な抵抗はしない方がいい」
「俺も痛いのは嫌いだから、そうしたいのは山々なんだけど」
俺は机の引き出しを開け、二丁の拳銃を取り出した。
胴体も弾も全て銀で出来た、俺の新しい武器だ。
「俺には今、守らなきゃいけないものがたくさんある。ここでおとなしく捕まるわけにはいかないんだよ」
「他人を守る心配より、自分を守れるかどうか心配するんだな」
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