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男は得物を振り上げ、勢いよく振り下ろした。
俺は銃を交差させて刃を受け止めると、男の目を睨み、洞察をかけるが・・・・・・洞察が利かない。
いや、使えない。
「・・・・・・っ」
思うように動かない体は、自分のものではなく、他者の体を借りているように不自由だ。
体を擦過していく鋭利な切っ先を銃身で跳ね返しつつ、隙を狙うために炎を身にまとう。
だが、俺の体を守るようにとぐろを巻いていた炎が、小さくなって消えていく。
「嘘だろ、なんで・・・・・・!?」
「得意の炎は不発か? 王族もその程度なんだな」
「く・・・・・・っ」
この一年で体が鈍ったか?
いや、それにしたって洞察や能力が使えないのはおかしい。
原因は分からないが、今の体で能力なしに戦うのは、圧倒的に不利だ。
何とかして、地上へ逃げれば皆がいる。
そこで体勢を立て直してーー。
「戦いの最中に他事を考えるとは、余裕だな!」
一撃一撃が重い剣撃を銃で受け止めていると、男の足が、俺の腹に繰り出されるのが見えた。
俺はとっさに、剣を防ぐ事を放棄し、腹部を抱える。
蹴りは腕で止めることが出来たが、男の剣は俺の胸を貫いた。
気管を損傷したようで、呼吸がうまくできない。
「あ、ぐ・・・・・・っ」
「え・・・・・・っ」
刺した本人が、目に見えて動揺していた。
俺は剣が刺さったまま後ろへ逃げ、床に座り込む。
痛い。胸が焼けるようだ。
逆流してくる血を盛大に吐き出しながら、俺は自分の腹を撫で、微笑んでいた。
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