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「おい、眠るな! おい!」
体から血がどんどん抜けていく。
瞼が落ちていく中、男が手のひらを剣で切り、その傷口を俺の口元に近づけた。
「死なれたら困る。飲め」
唇にぽたぽたと滴り落ちてきた甘美な滴を、俺は迷わず飲み下した。
少し体に力が戻り、俺は式を唱える。
すると、傷口がもぞもぞとうごめき、癒着するのを感じた。
「あり、がと」
「敵に向かって礼なんて、変な王族だな」
敵を助けるために血を与える君もじゅうぶんおかしいよ、と言いたかったが、俺の目はすでに暗闇の中に沈んでいた。
・・・・・・どのくらい時間が経っただろう。
エルヴィスの絶叫が聞こえたような気がして、俺は目を開けた。
視界には紺色の夜空が広がり、星が瞬いている。
肌寒さに体を振るわせると、俺を抱いていた腕が、微かに震えた。
もしかしてエルヴィスかーーと思って顔を上げると、俺を抱いていたのは、屋敷に急襲したあの男だった。
また顔や首に火傷を負っている。
・・・・・・という事は、再び結界をくぐったのか?
「ここは・・・・・・?」
どこなのか問おうとすると、周囲の冷気が強くなった。
同時に、殺気の色も濃くなる。
あたりの空気をどす黒く染める禍々しい気を追うと、漆黒のオーラを身にまとったエルヴィスがいた。
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