第一章

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 いつも優しく細められている目は大きく見開かれ、眼球全体が赤く染まっている。  エルヴィスが自らの爪で腕の皮膚を裂くと、流れ出た血が体を覆い始めた。  まるで鎧のように硬質化し、色が黒く変色していく。  翼がマントのように上へなびいたかと思うと、エルヴィスを包んでいたオーラが弾けるように霧散し、変わり果てた姿の夫が、ただ立っていた。 「エル、ヴィス・・・・・・?」  氷の長剣を持ち、漆黒の鎧を身にまとった姿は、まさに騎士そのもの。  甲冑の下からのぞく赤い相貌は、怒りで染まっていた。 「・・・・・・ダークナイト」  俺を抱えていた男が、小さくそうつぶやく。  たしかに、夜の国を統べる騎士王ーー暗黒の騎士(ダークナイト)と呼ぶにふさわしい。  だが、鎧の隙間からは血が流れ出し、地面に滴っている。 「だめだ、エルヴィス。体に負担がかかってる・・・・・・!」  エルヴィスを長くあの姿で居させるのは危険だ。  詳しくは分からないが、怒りに任せて暴走しているのは間違いない。  これでは、三百年前のマースの二の舞だ。 「止めないと・・・・・・!」  男の腕から抜け出そうともがくと、横から伸びてきた別の腕が、俺の体を持ち上げた。 「ご苦労だったね、ルーカス。今夜の任務はあらかた完遂だよ」 「ありがとうございます、団長」  男に向かって微笑み、俺を強く抱き抱えているのは、紛れもない・・・・・・ 「マース・・・・・・っ」 「お久しぶりです、殿下。お迎えが遅くなって大変申し訳ありません。ーーさ、我らが愛の巣へ参りましょう」
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