第一章

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「い、嫌だ・・・・・・!」 「おやおや、そんなに暴れられてはーー」  マースの唇が首に押しつけられる。  牙が皮膚に当たり、俺の喉からひきつった悲鳴が漏れる。  かつて受けた恐怖がまざまざと蘇り、心臓が不規則に跳ねた。  その時、離れた場所にいたエルヴィスが、地面を軽く蹴った。  舗装された歩道が砕け、アスファルトがはぜる。  甲冑から溢れた銀髪を靡かせ、エルヴィスは俺たちの目の前に躍り出た。手にしていた剣を躊躇いなく横へ振るうが、刃が届く範囲には俺もいる。  マースは俺を抱えて背後へ飛ぶと、小さく舌打ちした。 「危ないですね。もう少しで殿下の首が飛ぶところでした。あの人、敵味方の区別が付いていないんでしょうか」  こればかりは、マースの疑問は正しいと思った。  今のエルヴィスに、俺の姿は見えているのだろうか。  もし自我があるなら、俺の首も撥ねかねない状況で、迷いなく剣を振るえるだろうか。  ・・・・・・いいや、あのエルヴィスがそんな危険を冒してまで、敵を攻撃するとは思えない。  血の鎧をまとったエルヴィスに、どんな影響があるかも分からない。  彼をあれほどまでに追い込んでいるのは俺だ。  俺がまんまと敵に捕まったから・・・・・・。 「ーーっ、エルヴィス!」  俺が声の限り叫ぶと、エルヴィスの体が微かに震えた。  聞こえている。届いている。  彼は俺の声を認識している。 「いい加減、離せ!」
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