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「い、嫌だ・・・・・・!」
「おやおや、そんなに暴れられてはーー」
マースの唇が首に押しつけられる。
牙が皮膚に当たり、俺の喉からひきつった悲鳴が漏れる。
かつて受けた恐怖がまざまざと蘇り、心臓が不規則に跳ねた。
その時、離れた場所にいたエルヴィスが、地面を軽く蹴った。
舗装された歩道が砕け、アスファルトがはぜる。
甲冑から溢れた銀髪を靡かせ、エルヴィスは俺たちの目の前に躍り出た。手にしていた剣を躊躇いなく横へ振るうが、刃が届く範囲には俺もいる。
マースは俺を抱えて背後へ飛ぶと、小さく舌打ちした。
「危ないですね。もう少しで殿下の首が飛ぶところでした。あの人、敵味方の区別が付いていないんでしょうか」
こればかりは、マースの疑問は正しいと思った。
今のエルヴィスに、俺の姿は見えているのだろうか。
もし自我があるなら、俺の首も撥ねかねない状況で、迷いなく剣を振るえるだろうか。
・・・・・・いいや、あのエルヴィスがそんな危険を冒してまで、敵を攻撃するとは思えない。
血の鎧をまとったエルヴィスに、どんな影響があるかも分からない。
彼をあれほどまでに追い込んでいるのは俺だ。
俺がまんまと敵に捕まったから・・・・・・。
「ーーっ、エルヴィス!」
俺が声の限り叫ぶと、エルヴィスの体が微かに震えた。
聞こえている。届いている。
彼は俺の声を認識している。
「いい加減、離せ!」
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