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どろどろと溶け始めた鎧が、地面に真っ赤な水たまりを形成する。
全身真っ赤に染まったエルヴィスは、気絶したまま俺に倒れ込んだ。
血塗れになっても美しい夫。
俺のために血塗れになった、大事な大事な人。
彼を体を大切に抱え、俺は、
「イザーク!」
眷属の名を呼ぶ。
ちょうど三頭犬の頭を握りつぶしたイザークは、すぐさま俺の足下へ片膝をついた。
他の配下達も俺を囲むように集まり、マースを睨んだ。
「イザークはここにおります、殿下」
「エルヴィスを頼む。仲間も全員結界の中へ下げろ」
「殿下はどうされるのですか」
「・・・・・・奴らを退ける」
「殿下!?」
垂れていた頭を上げ、イザークは俺の服の裾を握った。
「そのご命令は承伏致しかねます! 御身はお世継ぎを身ごもっていらっしゃるのにーー!」
「能力を限界まで使う。お前たちも巻き込みかねない」
「しかしーー」
「二度も言わせるな。ーー下がれ」
「・・・・・・御意」
押し殺すように応じたイザークは、エルヴィスを抱き上げる。
一斉に結界内へ退避し始めた仲間を背後に、俺は両腕を広げた。
破裂音を立てて炎が現れ、心許なく俺の周囲を漂う。
全ての力を出し切れず、無理に能力を使っているせいで、額から汗が噴き出す。
ちらりと背後を見ると、仲間達は全員結界内へ逃げ込めたようだった。
俺は結界の不可視を解き、俺の力を防げるよう、防御力を上げる。そのかわり、中にいるものは外へ出られない。
イザークが結界に張り付き、俺に何か叫んでいるが、今は聞いていられない。
間髪入れずに襲いかかってくる三頭犬を炎で焼き殺しながら、長く変形させた爪で騎士団のーーかつての仲間の首を次々とはねた。
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