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この世界に生まれ落ちる命は、全てが尊く美しい。
生まれる前から大切に、愛される。
一つとして無駄な命はない。
今は弱々しい胎動もいずれ力強くなり、自らの意思で母胎の外へーー世界へ飛び出していく。
生きる事への希望と、未知なる世界で出会うであろう誰かに胸躍らせて・・・・・・。
「ーー殿下あああ! どちらにおいでなのですかあああ!」
地下へと続く洞穴から、イザークの叫び声がこだました。
地上に出て、暖かな日差しを浴びながら我が子を愛でていた俺は、地響きのような眷属の声に、びくりと体を揺らした。
「うわ、イザークの奴、もう俺が屋敷を抜け出したことに気づいたのか」
ばれないよう、こっそり抜け出してきたつもりだったが、ものの十分でばれてしまった。
恐らくイザークは地下王国内を駆け回って叫んでいるのだろうが、それが地上まで響いてくるとは驚きだ。
俺は切り株に腰掛けたまま、わずかに膨らみ始めた腹部を撫でた。
「ごめんな、驚いたろう。あれは俺の眷属のイザーク。ーー小姑みたいなやつだよ」
子供はお腹の中でころりと動いた。
まるで、俺の話に相づちを打っているようだった。
「・・・・・・あれから一年か。早いな」
俺がヴァンパイアに戻り、エルヴィスと結ばれたあの日は、つい昨日の事のようだ。
だが、今俺の体内に宿るかけがえのない命が、歳月の流れを実感させてくれた。
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