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首なしの騎士達の間を縫い進み、マースへ近づく。
ここで仕留めなければ、また悲劇の繰り返しだ。
「はああああああっ」
マースを守るように立ちふさがっていた騎士を一太刀で斬り伏せ、俺はみっともなくぜえぜえと荒い呼吸を繰り返した。
ローガンと男ーールーカスが、わずかに身構えてマースの前に進み出る。
一人悠然とたたずんでいたマースは、片頬を引きつらせながら俺に訊ねた。
「殿下、ご懐妊されているというのは、本当なのですか?」
「・・・・・・ああ」
「お相手は誰なのです?」
「お前は分かっているだろう、マース」
「・・・・・・エルヴィス様とのお子が・・・・・・」
握りしめていた剣を取り落とし、マースは頭を抱えた。
「そんな、私の殿下が・・・・・・汚されてしまった!」
狂ったように頭をかきむしるマース。
それを振り返り、ルーカスは心酔する騎士団長殿に手を伸ばす。
「あの、団長。大丈夫ーー」
「私の心配などしている場合か!? 今すぐ・・・・・・今すぐ殿下をここに連れてこい!」
泡を飛ばして怒り狂う上司を目の当たりにし、ルーカスはびくりと肩を震わせる。
そのまま俺を見やり、逡巡しているようだった。
親の言いつけを守るかどうか悩む、幼子のように。
すると、ルーカスを後ろへ突き飛ばし、ローガンが前に出た。
「こいつは俺がやる。お前は団長の側を離れるな」
俺に対して何の感情も浮かんでいない、虚ろなまなざし。
ほんの一年半前まで一番の理解者だった男が、俺に爪牙を向ける。
俺も、身構えた。
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