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「そんな・・・・・・」
一気に脱力したルーカスを抱え、俺は急いで胸に刺さった短剣を引き抜いた。
引き抜くと同時に止血の術式を施す。
この傷を与えた本人は、何事もなかったかのように微笑んでいる。
「お前、自分を慕う部下を・・・・・・」
「私にはあなたがいればいいのです。あなたの心、あなたの体、あなたがこの手に在れば、他には何もいらない」
硬質化しても脈打つことをやめない子宮を抱え、マースは俺に背を向ける。
「この赤ん坊が大切なら、ご自身で奪いにきて下さい。自己犠牲が大好きなあなたの身と引き替えに、お返ししましょう」
「ふざけるな! 今すぐ返せ!」
苛烈な炎をマースに向けるが、彼は剣を横へ一閃しただけで、炎をかき消した。
それどころか、その余波が衝撃波となり、俺とルーカスの体を結界まで吹き飛ばす。
ルーカスもろとも結界にぶつかり、凄まじい衝撃が背中に伝わった。
全身の骨がきしむ。
肋骨が折れ、胸から突きだしていた。
俺は全身から力が抜けるのを感じ、ルーカスを抱えたままその場に座り込んだ。
あの男の強さはどこからくる?
俺の血と人狼の血が混ざったことで、王族すらしのぐ力を手に入れてしまったのなら・・・・・・
「それではまた近々お会いしましょう、私の愛しい殿下」
地面に転がる俺達を一瞥すると、マースはローガンを連れて去っていく。
力の入らない足に鞭を打ち、必死に後を追いかけるが、痛めつけられた体で追いつけるはずもなく・・・・・・
「くそ・・・・・・くそ・・・・・・っ」
胸から突き出ていた骨は、じょじょに体内へ戻りつつある。痛みだって、ひいているはずなのに。
「どうして・・・・・・まだ、胸が痛いんだ」
胸の奥が、まだ痛い。疼くように鈍痛が残る。
地面に座り込み、喪失感の残るお腹を抱きしめた。
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