第一章

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「そんな・・・・・・」  一気に脱力したルーカスを抱え、俺は急いで胸に刺さった短剣を引き抜いた。  引き抜くと同時に止血の術式を施す。  この傷を与えた本人は、何事もなかったかのように微笑んでいる。 「お前、自分を慕う部下を・・・・・・」 「私にはあなたがいればいいのです。あなたの心、あなたの体、あなたがこの手に在れば、他には何もいらない」  硬質化しても脈打つことをやめない子宮を抱え、マースは俺に背を向ける。 「この赤ん坊が大切なら、ご自身で奪いにきて下さい。自己犠牲が大好きなあなたの身と引き替えに、お返ししましょう」 「ふざけるな! 今すぐ返せ!」  苛烈な炎をマースに向けるが、彼は剣を横へ一閃しただけで、炎をかき消した。  それどころか、その余波が衝撃波となり、俺とルーカスの体を結界まで吹き飛ばす。  ルーカスもろとも結界にぶつかり、凄まじい衝撃が背中に伝わった。  全身の骨がきしむ。  肋骨が折れ、胸から突きだしていた。  俺は全身から力が抜けるのを感じ、ルーカスを抱えたままその場に座り込んだ。  あの男の強さはどこからくる?  俺の血と人狼の血が混ざったことで、王族すらしのぐ力を手に入れてしまったのなら・・・・・・ 「それではまた近々お会いしましょう、私の愛しい殿下」  地面に転がる俺達を一瞥すると、マースはローガンを連れて去っていく。  力の入らない足に鞭を打ち、必死に後を追いかけるが、痛めつけられた体で追いつけるはずもなく・・・・・・ 「くそ・・・・・・くそ・・・・・・っ」  胸から突き出ていた骨は、じょじょに体内へ戻りつつある。痛みだって、ひいているはずなのに。 「どうして・・・・・・まだ、胸が痛いんだ」  胸の奥が、まだ痛い。疼くように鈍痛が残る。  地面に座り込み、喪失感の残るお腹を抱きしめた。
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