第二章

2/58

170人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「ーー目が覚めた? ルーカス」  目が覚めると、最初にあなたが目の前にいた。  俺は水の中から、ガラス越しにあなたを見ていた。  水が抜かれ、外の空気に触れて震える俺を、あなたは抱きしめてくれた。 「私の声、聞こえているかい?」  優しい声音が、耳に心地よかった。 「私はマース。君の名はルーカスだ」  最初に覚えたのはあなたの名前。  次に覚えたのが俺の名前。  あなたが俺にくれた、最初の贈り物。 「今日から私の側にいるといい。君は私のーー」  あの時、あの人は何と言っただろう。  あの人にとって、俺はどういう存在だったんだろう。 『ーー所詮君は捨て駒。代わりはいくらでもいるから、人質に取られたところで痛くもかゆくもない』  嘘だ。  あの人がそんな事を言うはずがない。  夢だ。きっと、目を覚ましたら・・・・・・。 「ーー目が覚めた? ルーカス」  ほら、またガラス越しに団長がいる。  俺を抱きしめて、あの優しい声で俺を呼んでくれる。  剣の稽古をして、ハリス副団長と会って・・・・・・。 「君の身柄は拘束させてもらった。体が回復したら、俺の尋問を受けてもらおう」  ・・・・・・おかしい。  なぜ、ヴァンパイアの王がいる?  俺はなぜ、ベッドに縛り付けられているんだ?  団長は? ハリス副団長は? 「傷は塞いだが、短剣が思いの外深く刺さっていた。しばらく安静にするように」  真っ赤に充血した目で俺を見下ろし、ヴァンパイアの王はそう言う。  目線を自分の胸に落とすと、包帯が巻かれていた。  そうだ、団長は俺に短剣を投げたんだ。  心臓めがけて、まっすぐ。  ・・・・・・俺を殺すために。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

170人が本棚に入れています
本棚に追加