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血の匂いは個々によって異なるが、イザークの血は臭みがなく、飲みやすい。
唇にほんのりと暖かい血液が触れ、舌の上を滑り、喉奥へ通り抜けていく。
たった一口飲んだだけだが、体が軽くなったような気がした。
無意識にため込んでいた息を吐き出し、硬い面もちで控えているイザークに微笑を向けた。
「さっきは怒鳴って悪かった。少し、いらついていた」
「い、いえ。私も出過ぎた真似を致しましたので」
「お前は悪くない。俺が弱かったんだ」
「殿下?」
小首を傾げるイザーク。
俺は夫の手を撫でながら、自嘲した。
「皆を守るって口では言いながら、実際は自分の子供も守れなかった。エルヴィスにも無理をさせて・・・・・・」
もし、エルヴィスの意識がこのまま戻らなかったらどうしよう。
あの優しい声、見惚れるように美しい笑み、全て失ってしまう。
今こうして握りしめている手の感触も、どんどん堅くなってーー堅くなる?
「え・・・・・・?」
エルヴィスの手が、石のように堅い。
よく見ると、右手の指先から手の甲まで、少しずつ石化していた。
「エルヴィス!?」
こんな現象は知らない。
もしもこのまま石化が進めば、エルヴィスの全身が石となってしまうのだろうか。
「何が起こっているんだ・・・・・・」
俺はただ、夫の手を握ることしか出来ない。
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