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屋敷に常駐しているヴァンパイアが、頭を下げたまま立っていた。
「どうした?」
「捕虜が暴れているのですが、いかが致しましょう」
「ルーカスが?」
「はい。現在監視の衛兵が二人、押さえております」
「分かった。行こう」
ひとまず荷造りはイザークに任せ、俺は急ぎ足で牢へ向かった。
牢とは言うが、この王国に牢は存在していない。
ヴァンパイアは、悠久の時を共に過ごす仲間を、裏切らないからだ。
だから、ルーカスの身は屋敷の奥深くに仮設された、たった一つだけの牢に繋がれている。
ルーカスが寝かされている独房を覗くと、叫びながら体を激しく揺さぶっていた。
「拘束を解け! 俺に触るな!」
「おとなしくしろ!」
「触るなって言ってんだろ!」
まるで手負いの獣のようだ。
血走った目で衛兵を睨みつけ、怒鳴り散らす姿にはいささか恐怖を覚えるが、俺の目には、ルーカスが親を求める迷子のように見えた。
俺は牢に入ると、ルーカスを押さえていた衛兵に言った。
「すまないが、外へ出てくれ。二人にしてほしい」
「そのご命令には従えません。陛下を捕虜と二人きりにするわけには・・・・・・」
「平気だ。信じてくれ」
「・・・・・・御意」
渋々外へ出て行く衛兵。
俺は近くの椅子を引きずり、ルーカスのベッドサイドに腰掛けた。
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