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車窓の外に広がる景色が、後ろへ後ろへ流れていく。
日差しを遮る厚い雲は、居所を変えて俺の胸にも流れ込んでいた。
何げなしに外を見ていると、断りもなく車窓をカーテンで覆われ、レンズを抜いた眼鏡が、俺の顔に掛けられた。
「いくら列車の個室とはいえ、気を抜いてはいけませんよ、殿下」
サングラスを外しながら、イザークが言った。
いつもは赤い瞳が、今は青色のカラーコンタクトで偽装されていた。
「すまない、まぶしかったか?」
「いいえ。ただ、敵に顔を見られては危険かと思いまして」
「・・・・・・そうだな」
変装をしているとはいえ、見るものが見れば、俺がライアンであることには気づくだろう。
あまり危険は侵せない。
車窓から離れて椅子に腰掛けると、向かい側に腰掛けていたルーカスが、居心地悪そうに身を縮めているのに気づいた。
「ルーカス? 大丈夫か?」
「・・・・・・平気だ」
「そうは見えないが・・・・・・俺と席を交代するか?」
椅子から立ち上がろうとすると、イザークが猛然と立ち上がり、俺を押さえ込んだ。
「殿下はそのまま座っていてください」
「でもーー」
「捕虜の管理は私が致します。どうぞ、その場にお座り下さい」
「お前なあ・・・・・・」
ルーカスさえよければと、今回のガルダ湖行きに同行させたのは俺だ。
本人も屋敷には残りたくないと言っていたし、見張りもかねて連れ出したまではよかった。
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