第二章

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 思わず、自分の頬に触れた。  まさか、会って間もない男に、そんな事を言われるとは思ってもみなかった。  ・・・・・・正直、俺は髪を切るつもりはなかった。  俺達の世界では、髪の長さは長寿と権力の象徴と言われ、王族は皆髪が長かった。  そういう理由もあって伸ばしていたが、一番の理由はエルヴィスだ。  彼は、この長い髪を気に入っていたのだ。  俺の母と同じ、綺麗な髪だと言ってくれた。  でも・・・・・・今の彼に、俺を見る力はない。  彼がいつ目を覚まし、もう一度俺の髪を誉めてくれるかも分からない。  それならいっそのこと。  彼の重い瞼を開けるため、弱い自分もろとも断ち切ろうと思った。  この先待ち受けているであろう、多くの困難と闘うために。 「・・・・・・寂しくはない」  俺を見下ろし、憮然とした表情を浮かべるルーカスに、そう言って微笑んだ。  ちょうど展望車両につき、視界が明るくなる。  床以外がガラス張りになった車両は、光に包まれているように輝いていた。  乗客は俺達だけで、貸し切り状態だ。  窓辺に設えてあるソファに飛び乗ると、俺は自分でも驚くくらい、快活に笑った。 「逆に、髪を切ってすっきりしたよ。頭が軽い」 「・・・・・・そうか」 「俺の心配より、お前は自分の心配をしろよ? イザークはああ見えて怖いんだ」 「ーーそれは、あんたもだ」 「う、わっ」  いきなり、強い力でソファに押さえつけられた。
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