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そっと頭を撫でてやると、ルーカスの目からぼろりと大粒の涙が滴る。
じょじょに肩を大きく震わせ、しまいには顔をくしゃくしゃに歪ませて嗚咽を漏らした。
胸に押しつけられた頭を撫でてやる。
ようやく胸の支えが一つとれた気がし、俺は安堵する。
しばらくそうしていると、ルーカスは顔を拭いながら俺からいそいそと離れた。
「もういいのか?」
苦笑混じりに訊ねると、彼は耳を赤くして頷いた。
「大丈夫だ。ーーその、悪い」
「悪い? 何が?」
「服、汚しちまって・・・・・・」
ルーカスが顔を押しつけていたところは、確かに濡れて染みになっていた。
これぐらいで謝るな、と言おうとすると、
「殿下!」
展望車両の扉が開き、残してきたはずのイザークが闊歩していた。
「あれっ、個室にいないと国へ返すって言ったはずなんだけどーー」
「そんな冗談を言っている場合ではありません。協力者から、急ぎ殿下へ伝えなければならない情報を得ました」
「何?」
イザークは片耳に装着した小型軽量化された携帯電話を外し、俺に差し出す。
それを急いで受け取り、俺は右耳にはめ込んだ。
「俺だ、ライアンだ」
『おお、お懐かしいお声。お久しゅうございます、ライアン様』
「・・・・・・ムグリか?」
『ええ。ムグリにございます』
少し老いの感じさせる、高めでしわがれた男の声。
だが、教育係として側にいた師の声を、聞き違えることはなかった。
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