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「団長、起きて下さい。着きましたよ」
聞き慣れた声と、体が揺さぶられる感覚で、私は目を開けた。
私の向かい側に腰掛けていたルーカスが、微笑している。
その表情に、あの人の面影があって、私は彼の頬に手を伸ばした。
「殿下・・・・・・」
「団長?」
私の手に触れ、ルーカスは首を傾げた。
・・・・・・やはり違う。
殿下に代わるものはないのだと、実感する。
「もうフィレンツェに着いたのか?」
「はい。駅前で、駐屯基地のウェスカー隊長がお待ちです」
「分かった。行こうか」
手荷物はルーカスに任せ、一等車両の個室から出る。
すると、嗅ぎ覚えのある匂いがかすかに香った。
こんな場所で、こんな昼間に香るはずのない香り。
その香りを追って振り返るが、いるのはルーカスだけだ。
「どうされました?」
「いや・・・・・・なんでもない」
「そうですか? お顔の色が優れないようですけど・・・・・・」
「大丈夫だよ。最近寝てなかったからかな」
ヴァンパイアの存在を世に知らしめてから、私に休む暇など与えられない。
毎日部隊を世界各国に送り込み、ヴァンパイアやそれに荷担する者を排除してきた。
全ては、あの方と私が穏やかに過ごせる世界を作る為なのだ。
成し遂げるまで、私に眠りなど必要ない。
今は、殿下を苦しめる最大の要因ーーあの赤ん坊を、形が形成される前に、何としても殺さなくては。
「あれが生まれると、殿下が死んでしまう。その前に、なんとか・・・・・・」
思わず口に出してしまった。
だが、これは私の確固たる決意だ。
あの方のためなら、私は悪魔にも化け物にでも成り下がろう。
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