第二章

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*** 「団長、起きて下さい。着きましたよ」  聞き慣れた声と、体が揺さぶられる感覚で、私は目を開けた。  私の向かい側に腰掛けていたルーカスが、微笑している。  その表情に、あの人の面影があって、私は彼の頬に手を伸ばした。 「殿下・・・・・・」 「団長?」  私の手に触れ、ルーカスは首を傾げた。  ・・・・・・やはり違う。  殿下に代わるものはないのだと、実感する。 「もうフィレンツェに着いたのか?」 「はい。駅前で、駐屯基地のウェスカー隊長がお待ちです」 「分かった。行こうか」  手荷物はルーカスに任せ、一等車両の個室から出る。  すると、嗅ぎ覚えのある匂いがかすかに香った。  こんな場所で、こんな昼間に香るはずのない香り。  その香りを追って振り返るが、いるのはルーカスだけだ。 「どうされました?」 「いや・・・・・・なんでもない」 「そうですか? お顔の色が優れないようですけど・・・・・・」 「大丈夫だよ。最近寝てなかったからかな」  ヴァンパイアの存在を世に知らしめてから、私に休む暇など与えられない。  毎日部隊を世界各国に送り込み、ヴァンパイアやそれに荷担する者を排除してきた。  全ては、あの方と私が穏やかに過ごせる世界を作る為なのだ。  成し遂げるまで、私に眠りなど必要ない。  今は、殿下を苦しめる最大の要因ーーあの赤ん坊を、形が形成される前に、何としても殺さなくては。 「あれが生まれると、殿下が死んでしまう。その前に、なんとか・・・・・・」  思わず口に出してしまった。  だが、これは私の確固たる決意だ。  あの方のためなら、私は悪魔にも化け物にでも成り下がろう。
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