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本人に自覚がないのが、よりいっそう俺とルーカスを落ち込ませるようだった。
ーーその時、駅前がざわついた。
打ち合わせていたかのように人並みが割れ、駅から外へ続く扇状に広がった階段の前に、一台の車が滑り込んできた。
車体も窓も全て黒一色だ。
「危ないな。人でもひいたらどうするつもりだ」
「いや、気にするのはそこじゃないぜ」
ルーカスに促されて車体をよく見ると、見覚えのある紋章が描かれていた。
聖騎士団の紋章だ。
「駐屯地は駅から離れているはず。なぜこのタイミングで?」
イザークが油断なく周囲を見回しつつ、訊ねる。
問いに答えてやりたいが、俺の意識はすでに別の所へ向いていた。
駅の中から出てきた、マースへ。
「あいつを迎えにきたんだ」
「まさか、同じ汽車に乗っていたのでしょうか」
「そうだとしたら、よくばれなかったもんだ」
もう、笑いしかこみ上げてこない。
こんな近くにマースがいたことにすら気づかなかった、自分のふがいなさに。
「急いでここを離れるぞ。見つかったら戦闘になりかねない」
「同意ですね。メディチ家礼拝堂へ行きましょう」
俺とイザークは揃って回れ右をしたが、ルーカスが動かない。
じっとマースのいる方角を、睨むように見つめている。
「ルーカス、行こう」
「なんで・・・・・・」
「ん?」
「なんで、俺が居るんだ?」
ぶるぶると震えた指で、ルーカスは駅の方を指さす。
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