170人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
彼が指し示す方へ視線を向けると、満面の笑みを浮かべてマースへ駆け寄る、ルーカスとうり二つの青年がいた。
替えが利くという言葉を聞いたときから、こうなるだろうと、少し予想はしていた。
だが、その現実を目にしたルーカスが、どれほどの衝撃を受けるのかは、分からなかった。
マースに微笑みかけられ、「ルーカス」と呼ばれるあの青年を、ルーカスはどんな気持ちで見ているのだろう。
自分に向けられていた笑みが、自分の後釜に座った者へ向けられている事に、どんな気持ちを抱いているのだろう。
想像することしかできないが、今は、
「ルーカス」
彼の手をとり、強く引く。
建物の影に移動すると、マース達が見えないよう、彼の頭を俺の肩へ抱き寄せた。
掛ける言葉も見つからず、ただ彼の視界を塞いだ。
彼はおとなしく俺の肩に額を押しつけていたが、体の震えは止まらない。
こんな時、お前ならどうした? エルヴィス。
「・・・・・・落ち込んでいるところ悪いんですけど」
俺が必死に考えているというのに、イザークがぶすっと頬を膨らませて言った。
「いい歳をした大人が、こんな公衆面前で抱き合わないで下さい」
「お前・・・・・・」
「今車から降りた男・・・・・・何者か知っていますか」
俺の言葉は無視して、イザークはルーカスに訊ねた。
イザークが顎で示したのは、マースに向かって恭しく頭を下げる、白髪の男だ。
俺の肩からゆっくり顔を上げ、ルーカスもその男を見た。
「・・・・・・ダルス・ウェスカー。一度だけ、本部で紹介されたことがある」
最初のコメントを投稿しよう!