第二章

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 聞き覚えのある名前だった。  俺はルーカスにハンカチを差し出しながら、確認した。 「ダルス・・・・・・もしかして、孤狼ダルスか?」 「知ってんじゃねえか」 「一年半前までは、俺も聖騎士団にいたからな」 「は? それってどういう・・・・・・」  言い募ろうとするルーカスだが、それを押しのけてイザークが俺の側に寄った。 「今そんな事はどうでもいいです。あの男が孤狼ダルスなら、やはり戦いは避けるべきでしょう」  俺も同意見だ。  ダルス・ウェスカー・・・・・・俺のように、あの男を見たことがない者はいくらでもいるだろうが、彼の名前を知らない者は、恐らくいない。  それほど、ダルスという男は名が知れた戦士だ。  フルネームよりも、誰がつけたのか「孤狼」と呼ばれることの方が多いダルス。  その名の通り、一人を好み、戦場でも単身で敵へ攻撃を仕掛けーー必ず生還する。  彼が通り過ぎた後には、ヴァンパイアの屍が転がり、まるで腹を空かせた狼が食い漁ったかのように、肉が引き裂かれているのだという。  群を嫌う彼とは、一度も本部で顔を合わせたことはなかったが、マースから「私の後継者となり得る人だよ」と、よく聞かされていた。  現段階で、最もマースから信頼を寄せられている戦士であることは間違いない。  そんな強者が、ここフィレンツェにいるとは誤算だった。
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