第二章

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 とにかく、奴らとまともに戦えるのは、実質俺だけだ。  今は礼拝堂にいるであろう仲間と合流し、体制を立て直さなくては。 「行くぞ」  マースがいる方をちらちら見ているルーカスの手を引き、メディチ家礼拝堂がある方へ駆け出す。  屋根が平面の建物が多く走りやすいが、右肩にイザークを担ぎ、左腕でルーカスを引きずるように連れている。  俺の耳には、建物の壁面を削るような音も聞こえている。音は確実に上へ登り、迫ってきていた。  やがて音は壁面を登り切り、消える。  すぐ横を風が擦過していったかと思えば、進路を塞ぐように、ダルスが仁王立ちで待ちかまえていた。 「太陽がまだ出ているのに、外を出歩くのはどんな無謀なヴァンパイアかと思えば・・・・・・とんだ大物だったな」  氷のように冷たい視線が、俺を捉えた。 「会うのは初めてだな、ライアン君。噂は団長からかねがね聞いていたよ」 「それは光栄です、ダルスさん。俺も、人間時代はあなたの武勇伝をよく聞かされましたよ」 「そうか、お恥ずかしい限りだ」  微笑みこそするが、ダルスの周囲に渦巻く殺気は色濃い。  全身を針で刺され続けているように、ぴりぴりと皮膚が痛んだ。 「俺達はあなた達と戦いに来たわけじゃないんです。だから、そこをどういてもらえませんか?」 「そうしてあげたいのは山々なんだが、こちらも仕事でね。ヴァンパイアは・・・・・・それも王族となれば、見逃すわけにはいかない」  そうですよね、と俺が笑うと、ダルスの視線が俺から逸れた。  彼はまっすぐルーカスを見つめ、深くため息を付いた。 「そこにいるのが、廃棄処分になった被検体か。君には抹殺命令が下っているから、ここで処分させてもらおう」
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