第二章

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「えっ、抹殺・・・・・・?」  かすれた声が背後から聞こえると同時に、ダルスの体が陽炎のように揺らぎ、消えた。  俺はとっさに、抱えていたイザークをルーカスに押しつけ、後方へ突き飛ばす。  腰に装着していた銃を掴んで眼前で交差すると、全身を衝撃が襲った。  俺が交差した銃に、ダルスの拳が叩きつけられたのだ。  肩胛骨から指先まで、びりびりと電流が走るように痺れる。  きっと、腕力だけならマースよりもダルスの方が強い。  銃を押し返してダルスを突き離し、姿勢を崩した彼めがけ引き金を引く。  だが、後ろへ大きくのけぞっていたにも関わらず、ダルスは手を無造作に払い、俺の撃ち出した弾丸を掴み取っていた。  とんでもない動体視力だ。  落ち着いて距離をとりつつ、座り込んでいるルーカスの傍らへ近づいた。  彼はイザークを抱えたまま、ぼんやりとした様子でダルスをーーいや、虚空を見ていた。 「平気か?」  声をかけても、前を見たまま動かない。  もともと血の気の薄かった顔が、もはや蒼白だった。 「動けそうなら、急いでここから離れろ。座り込んでいたら、殺されるぞ」 「・・・・・・いい」 「何?」 「もう、どうでもいい」 「は?」  覇気のない顔。淀んだ声。  初めてあった時の面影は、とうに失せていた。  生きる意志を感じない瞳で俺を見上げ、唇だけ、いびつに歪ませて笑っていた。
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