170人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「えっ、抹殺・・・・・・?」
かすれた声が背後から聞こえると同時に、ダルスの体が陽炎のように揺らぎ、消えた。
俺はとっさに、抱えていたイザークをルーカスに押しつけ、後方へ突き飛ばす。
腰に装着していた銃を掴んで眼前で交差すると、全身を衝撃が襲った。
俺が交差した銃に、ダルスの拳が叩きつけられたのだ。
肩胛骨から指先まで、びりびりと電流が走るように痺れる。
きっと、腕力だけならマースよりもダルスの方が強い。
銃を押し返してダルスを突き離し、姿勢を崩した彼めがけ引き金を引く。
だが、後ろへ大きくのけぞっていたにも関わらず、ダルスは手を無造作に払い、俺の撃ち出した弾丸を掴み取っていた。
とんでもない動体視力だ。
落ち着いて距離をとりつつ、座り込んでいるルーカスの傍らへ近づいた。
彼はイザークを抱えたまま、ぼんやりとした様子でダルスをーーいや、虚空を見ていた。
「平気か?」
声をかけても、前を見たまま動かない。
もともと血の気の薄かった顔が、もはや蒼白だった。
「動けそうなら、急いでここから離れろ。座り込んでいたら、殺されるぞ」
「・・・・・・いい」
「何?」
「もう、どうでもいい」
「は?」
覇気のない顔。淀んだ声。
初めてあった時の面影は、とうに失せていた。
生きる意志を感じない瞳で俺を見上げ、唇だけ、いびつに歪ませて笑っていた。
最初のコメントを投稿しよう!