170人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「カトリーヌ? 大丈夫か?」
「も、申し訳ありません、陛下」
「何かあったのか?」
普段冷静な印象が強いぶん、ここまで感情を露わにしている姿は珍しい。
ひとまず彼女を落ち着かせようと背中を撫でてやると、デズモンドが表情を曇らせた。
「・・・・・・昨晩の戦闘で、カトリーヌが初めて眷属にした者が殺されたのです」
ヴァンパイアは血を分けることで、眷属と絆を結ぶ。
自分の分身であり、可愛い我が子のような存在。何にも代え難い、一番の理解者だ。
その眷属が死ぬだけでも大変な悲しみだというのに、ましてや第一の眷属が殺されたとなれば、彼女の苦しみは俺では計れない程大きな物だろう。
俺が彼女の立場なら、イザークを失うと同じ事。
唯一の眷属であるイザークを失ったとき、俺はきっと怒りに支配されてしまうにちがいない。
「ーーデズモンド、彼女を休ませてやってくれ。地上での報告は、またあとで聞くから」
「仰せの通りに、陛下」
カトリーヌを連れて去っていくデズモンドを見送ると、俺はエルヴィスの顔を仰ぎ見た。
何か言おうと口を開くが、俺から発せられたのはうめき声だけだった。
毎日、仲間が大勢殺される。
中には見知った顔の者もいた。
彼らを守ると誓ったのに、俺は安全な場所で一人過ごすだけ。
子供のためにも、それが最善策だというのは分かってはいるが、俺の胸には漠然とした無力感が溜まりつつあった。
最初のコメントを投稿しよう!