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「殿下、ほんの少しでかまいません。どうか血を頂けませんか?」
「それはできない。あれは副作用がーー」
「お願いします」
睨まれるように懇願され、俺は渋々頷いた。
「・・・・・・分かった」
俺は手のひらに爪を立て、薄く切る。
ぷっくりと赤い滴がわき上がる。
イザークの喉がごくりと鳴った。
「頂戴します」
青ざめた顔が手のひらに近づき、暖かい舌が傷を舐めた。
俺の血がイザークの口内に消える。
味わうように目を閉じたイザークの顔には、もう脂汗は浮いていなかった。
ゆっくり開かれた緋眼は、力強く輝きを増す。
「嗚呼・・・・・・久々ですね、この感覚」
「付け焼き刃だ。無理をするんじゃないぞ」
「承知しております」
今のイザークは、日光に組み敷かれてはいなかった。
夕空を堂々と仰ぎ、ほほえんでいる。
「では、参りますよ!」
嬉々としてダルスに向かっていく背中。
俺は銃をしまうと、ルーカスに手を差し出した。
「ほら、立て」
ぼんやりと座っていたルーカスは、俺の手を取るとゆっくり立ち上がり、訊ねた。
「・・・・・・あれは?」
「イザークの事か?」
ルーカスは静かに頷いた。
「急に元気になったな」
「あれは、言わばドーピングで一時的に身体能力もろもろが向上しているんだよ」
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