第二章

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 他者に流され、身を任せるのは簡単なこと。  失敗しても、他人の責任にしてしまえばいいから、気持ちも楽だ。  だが、それでは己の生き方を全うしているとは言えないのではないだろうかと、俺は思う。  命に限りのある生き物にとって、この世に命を授かった瞬間から、生きるという義務が生じる。  その命を生きるのは他の誰でもない、自分自身。  代えの利かない、たった一度きりの人生を周囲の流れに任せて生きるだけでは、それはもはや自分の人生ではない。  周りに生かされるだけの人形だ。  ルーカスは今生きる希望を見失い、生を手放そうとしている。  人工とはいえ、生きている彼に自ら死を選ばせるのは、俺の中の何かがストップをかける。 「マースに殺されかけたが、お前は一度生きることを選んだ。それなら、その思いを貫け。生きる理由が必要なら、俺が何度だって与えてやる。ーー俺のために力を貸せ。俺のために生きろ、ルーカス」 「・・・・・・俺の代わりはいくらだってーー」 「いない。お前はお前だ。俺が知るルーカスはお前だけなんだよ」  逡巡する彼を抱き寄せて、幼子をあやすように背中を撫でてやった。 「頼む、力を貸してくれ」 「ーーお前は、俺を捨てないか?」 「捨てるものか。お前が巣立つまで、側にいるよ」 「・・・・・・どうだか」  何度かルーカスの背中を撫でていると、俺達の顔に影が差した。  癖の強い黒髪を風になびかせ、長身の男がたたずんでいた。  夕日を背後に立っているため顔が見づらかったが、よく見てみれば、見知った顔だった。 「ーーレオナルド?」 「久しぶりだなあ、坊。びっくりするぐらい、姫様そっくりに育ったな」  快活に笑う彼は、亡き母の眷属であった、レオナルド・ダ・ヴィンチだった。
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