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遠い昔の記憶にしか、彼の姿はない。
それでも、母が城で生きていた幸せな時間の中に、彼は確かに存在していた。
母を敬い、愛し、尊んでいた男。
母の死と同時に・・・・・・城から出ていった男。
「まさか、あなたが俺の護衛にくるなんて思わなかった」
彼への思いからか、おもわず低い声が出てしまった。
レオナルドは苦笑しながら、立ち上がった。
「恨み言は列車の中でいくらでも聞こう。今は、あのワン公をどうにかしねえとな」
そう言うと、レオナルドはイザークとダルスが戦っている場所へ歩き出した。
制止しようとしたが、
「待て待て、仮にも王族だろ? お偉いさんが先頭切って戦うな。お前はそこで、その赤ん坊をあやしてな」
「どの口からそんな言葉が出てくるんだ」
「ん? もちろん、このお口に決まってるだろ」
俺に向かってウインクとキスを投げ、レオナルドは再び前を向く。
後ろ姿を強く見据えていると、ルーカスが俺から身を離しながら訊ねた。
「おい王族。あいつは誰だ?」
「かの有名な画家、レオナルド・ダ・ヴィンチ。そして、俺の母唯一の眷属だ」
「ダ・ヴィンチって・・・・・・嘘だろ?」
「いいや、本当だ。俺の母が死ぬその時まで、隣にいた男だよ」
「・・・・・・あんた、あいつのことが嫌いなのか?」
「なぜ?」
「顔に出てる」
「・・・・・・」
そんなに分かりやすかっただろうか。
自分の顔を触ってみるが、特に違和感はない。・・・・・・あるわけがない。
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