第二章

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 遠い昔の記憶にしか、彼の姿はない。  それでも、母が城で生きていた幸せな時間の中に、彼は確かに存在していた。  母を敬い、愛し、尊んでいた男。  母の死と同時に・・・・・・城から出ていった男。 「まさか、あなたが俺の護衛にくるなんて思わなかった」  彼への思いからか、おもわず低い声が出てしまった。  レオナルドは苦笑しながら、立ち上がった。 「恨み言は列車の中でいくらでも聞こう。今は、あのワン公をどうにかしねえとな」  そう言うと、レオナルドはイザークとダルスが戦っている場所へ歩き出した。  制止しようとしたが、 「待て待て、仮にも王族だろ? お偉いさんが先頭切って戦うな。お前はそこで、その赤ん坊をあやしてな」 「どの口からそんな言葉が出てくるんだ」 「ん? もちろん、このお口に決まってるだろ」  俺に向かってウインクとキスを投げ、レオナルドは再び前を向く。  後ろ姿を強く見据えていると、ルーカスが俺から身を離しながら訊ねた。 「おい王族。あいつは誰だ?」 「かの有名な画家、レオナルド・ダ・ヴィンチ。そして、俺の母唯一の眷属だ」 「ダ・ヴィンチって・・・・・・嘘だろ?」 「いいや、本当だ。俺の母が死ぬその時まで、隣にいた男だよ」 「・・・・・・あんた、あいつのことが嫌いなのか?」 「なぜ?」 「顔に出てる」 「・・・・・・」  そんなに分かりやすかっただろうか。  自分の顔を触ってみるが、特に違和感はない。・・・・・・あるわけがない。
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