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「ムグリ、もうその辺にしてやってくれ」
「おやおや、これは失礼を。珍しい物を見るとつい・・・・・・」
マグカップから血をすすると、少し落ち着いたムグリは椅子へ腰掛けた。
「しかし、目立つのがお嫌いと聞く陛下が、空を飛んでいらっしゃるとは。驚きましたぞ」
「フィレンツェでダルス達に襲われたから、仕方なく。予定より到着が遅くなってしまった」
「かまいません。客人も、明日の朝訪ねてくる事ですし、今夜はお眠りなされ」
「ありがとう。でも、俺はまだやることがあるから、ルーカスに寝床を貸してやってくれるか?」
「承知いたしました」
ムグリの手招きで、ルーカスは緊張気味についていく。
一度俺の顔を見たが、そのまま奥の部屋に消えた。
これでようやく、"この男"と二人きりになれた。
俺の視線に気づき、暖炉の傍にたたずんでいたレオナルドは、顎で二階を指した。
「上で話そう」
彼の背を追い、きしむ階段を一歩ずつ登る。
上がりきると、扉も何もなく、屋根裏部屋に近い、天井の低い部屋に出た。
室内にはイーゼルが十数個置かれ、布のかぶったキャンバスや、描きかけと思われる絵画がたてかけられていた。
レオナルドは、質素なベッドに腰を下ろすと、近くにあった丸椅子を蹴って、俺に勧めた。
「悪いな。客をもてなせるような椅子は、あいにく持っていなくてね」
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