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「母の?」
スケッチブックに刻み込まれたしわを丁寧にのばすと、レオナルドは表紙をめくって俺に見せた。
「姫様が生きていらっしゃる頃の、デッサン画だよ」
「あ・・・・・・」
中には、まるで写真のように細かく描き込まれた、母の絵があった。
ひなたでまどろむ母、剣を握る母、父と並ぶ母ーー様々な姿が、鮮明に描かれている。
黒々とした髪や、やわらかな肌まで、そこに存在するかのように、緻密に描かれている。
中でも俺の目を引いたのは、母が赤ん坊を抱いて微笑んでいる絵だった。
「これは・・・・・・」
「お前が生まれた時の絵。この時の姫様が、一番綺麗だった」
デッサン画の母の頬を指先で撫で、レオナルドは目を潤ませる。
細かく震える唇から、かすかな嗚咽が漏れていた。
「姫様は、ろくに戦えもしない臆病な俺を、ずっと守ってくれた。初めて絵を褒めてくれたのも彼女だ。俺の全てだった」
「全て・・・・・・? じゃあ、どうして母の葬儀に出なかったんだ!」
レオナルドの体を壁に押さえつけ、俺はのどが熱くなるほど吠えた。
「母が死んで、真っ先に城を出て行ったのはなぜだ? 父が殺され、俺も消えた時、なんでイザーク達の傍にいてやらなかったんだ!」
彼が他のヴァンパイア達のもとにいてくれれば、また状況は違ったかもしれない。
いや、それよりも、自分の主人が死んだというのに、見送らず姿をくらませた事が許し難い。
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