第一章

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 同時に、先の見えない不安感が体内をねっとり這い回る。  このまま戦い続けたら、一体俺たちはどうなるのだろう。  誰が生き残ってーー誰が死ぬのだろう。  俺が王として配下たちにしてやれることは、他にもないのだろうか。  俺にもっと力があればーー。 「ライアン」  自分を追い込むように自問自答を繰り返していると、エルヴィスが俺の手に触れた。  知らない間に拳を強く握りしめていたようで、掌には血がにじんでいた。 「全くお前は・・・・・・」  俺の手を握ったまま、エルヴィスは掌の傷に唇を寄せ、真っ赤な舌で血を舐めとった。  節目がちに掌を見下ろす彼が妙に艶っぽくて、俺は息を呑んだ。 「エルヴィーー」 「一人で何を考え込んでいたのか知らないが、お前が心配する事は何もない」 「え・・・・・・」 「大丈夫だから」  俺の心へ刷り込むように、エルヴィスは「大丈夫」と繰り返した。  愛しい人の声は、いつも安堵となって胸にしみこんでくる。  自分でも抑えようのなかった不安が、体の外へ押し出されて消えていくようだった。  エルヴィスの手を握り返して微笑すると、完全に蚊帳の外だったイザークが、ふくれっ面でそっぽを向いた。 「はいはい、私の存在をお忘れになるほどお熱いご様子なので、私は自室に戻りますね!」  俺が止めるまもなく、イザークは足音荒く遠ざかっていく。眷属にのばしかけていた手をゆっくり下ろすと同時に、エルヴィスが「さて」と声を発した。 「私はデズモンドに話を聞いてくるとするか。お前は部屋に戻るといい」 「・・・・・・いや、少し下に行ってくるよ」 「また研究か?」 「うん。少しでも早く完成させたいから」 「あまり根を詰めすぎるなよ」 「そうするよ」  夫の頬に軽く口付けすると、俺はお腹の子に気を使いながら、屋敷の地下へ向かった。
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