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「母は、お前を誰よりも信頼していたんだぞ! それなのに、最期の時を見送ってもらえないなんて・・・・・・!」
「ーーそれが王妃の願いじゃったのです、陛下」
黙り込むレオナルドをかばうようにして、階段を上がってきたムグリが言った。
静かでありながら有無を言わせない迫力を持ったムグリにたいし、俺は一瞬言葉を詰まらせた。
「何、だって・・・・・・?」
「ーー下で、お話ししましょう。お二人だけでは、口論になるだけじゃ」
ムグリの持っていた杖が俺とレオナルドを引き離す。
しわだらけの手が俺の頬に添われると、俺の中の怒りが、不思議にも収束していった。
「ほっほ、このように王妃とうり二つのお顔で怒鳴られては、レオナルドも己の言い分を言えやしませんでしょう」
「ちょっと、おやっさん・・・・・・」
「本当の事じゃろう? お前は一度として、口論で王妃に勝てた試しはないのじゃから」
どうやら本当の事らしく、レオナルドは頬を赤らめてそっぽを向いた。
俺はムグリに手を引かれ、再び一階へ降りていく。
暖炉の傍にあった椅子へ、半強制的に着席させられた。
てっきりムグリも会話に加わるのかと思ったが、彼は血の入ったマグカップを持ち、レオナルドに話すよう促すだけだった。
レオナルドは俺の向かい側で、落ち着きなく両手の指を遊ばせて、視線を泳がせていた。
俺は辛抱強く、彼が口を開くのを待った。
すると、意を決したように、レオナルドが唇を震わせながら話し始めた。
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