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「どうしてそんな心配を・・・・・・」
「ーー王妃はご自分の死期を悟っておったのじゃ」
ムグリの、カップを握る手に力がこもるのが分かった。
「死期? だって、母は人狼に殺されたって・・・・・・」
「王妃は、理由は分からんが、治癒能力を失ったと言っておった」
まるで、子を身ごもっていた時の俺のようだ。
普段なら治る傷も、あの時は全く治らなかった。
だが、母が亡くなったとき、俺は既に生まれていた。
子を奪われた今の俺には、治癒能力が戻っている。
何か関係があるのだろうか・・・・・・。
「ムグリ、実は・・・・・・」
俺は子を身ごもった事、母と同じく治癒能力を失っていたことを二人に話した。
ムグリは喜んでいたが、レオナルドはエルヴィスへの怒りを露わにしていた(なぜかは分からないが)。
「なんと! 御子を身ごもっておられたとは! こりゃめでたい!」
「おやっさん、よくそんなのんきに喜んでいられるな」
「馬鹿者、これが喜ばすにおれるか!」
杖で床を乱打しながら、ムグリはにやにやと笑っている。
すでに子供の名前を考え始めている老人を放置し、レオナルドは俺に向き直った。
「今は、傷は治る体なんだな?」
「ああ。子供を授かる前と同じ体だ」
「そうか・・・・・・よかった」
「ーーなあ、なぜ母は、傷の治らない体で、人狼の集落なんか行ったんだ?」
「え・・・・・・」
「あの父が、傷の治らない母を戦場に出すとは思えない。何か、行かざるを得ない状況だったのか?」
「・・・・・・俺が、いたからだ」
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