第二章

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 レオナルドは己の手を強く握りしめ、うなだれた。 「あの日、俺は先王の命令で戦場に駆り出された。ただ怖くて、姫様の所に帰りたいと願っていたら、彼女が来たんだ」  何も聞かされず、勝手に戦地へ送られていた眷属を迎えに、母は城を出たらしい。  人狼の集落で、怯えながら戦っていたレオナルドを見つけると、母は我が身もかえりみず、彼を引きずるように連れ帰ろうとした。  だが、物陰に隠れていた人狼の攻撃からレオナルドをかばいーー体を裂かれたそうだ。 「血がたくさん流れて、姫様の体が冷たくなっていって、俺は・・・・・・俺は何もして差し上げられなかった!」  何度も頭を激しく振るい、レオナルドは髪をかきむしりながら慟哭した。  ムグリが悲しげに目を伏せ、レオナルドの背中を撫でていた。  俺はただ、この男がむせび泣く姿を、見ているだけだった。  母を失った子として、どうしてもこの男に同情してやることが出来なかった。  母と俺を捨て、一人逃亡したのだから。  誰にでも分け隔てなく優しかった、自慢の母。  彼女が最期に命を懸けたのは、己が子でもなく、眷属。 「それほど悲しむなら、葬儀で見送ってやればよかっただろ」  いや・・・・・・参列を望んでいたわけじゃない。  あの時の俺は、ただ母との思い出を知る存在に、傍にいて欲しかった。  ヴァンパイアは、死ねば形も残らず消え失せる。  生きていた母を誰より知るレオナルドに、せめて隣にいて欲しかったのだ。  それなのに、レオナルドは大きな荷物を背負い、出て行った。  葬儀へ参列するため、部屋で泣きながら準備していた俺に、たった一言「じゃあな」とだけ言って。  幼いながらに、裏切られた気がした。
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