170人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
去っていく背中を見上げ、何度も彼の名を呼んだ。
行かないでと啼泣(テイキュウ)した。
「たとえ出て行けと命令していたとしても、母上はきっと、お前に見送って欲しかったはずだ。たった一人の眷属に」
自分でも知らない間に涙が滲み、頬を伝って顎から滴った。
レオナルドが手を伸ばしてきたと思えば、ぎこちない手つきで頬を撫でられた。
「姫様は、俺の好きなように生きろと言って下さった。同時に、お前に何かあったときは頼むと」
レオナルドは画家としての地位、名誉を使って必死に情報を集めていたが、この三百年、俺は死んだと思っていたらしい。
あの消え去りようでは無理はない。
エルヴィスたちも、俺が死んだと思っていたのだから。
「お前が生きていたと分かって、俺はすぐにおやっさんと連絡を取った。ーー姫様の分もお前を守るために」
「俺を守るというなら、あなたの嫌いな戦場に行くことになるぞ?」
「分かったんだよ。大切な人を御失う恐怖に比べれば、戦場なんて少しも怖くない」
頭を軽く叩くように撫でられ、なんだか気恥ずかしくなった。
「別に、あなたに守ってもらうほど俺は弱くないし・・・・・・」
「だろうな。でも、お前を守るのは俺たちだけじゃない」
そう言うと、レオナルドは立ち上がった。
ふわりと空気が揺らぎ、彼の背中に一対の翼が広がる。
「この翼は、姫様が死ぬ間際、俺に譲ってくれたんだよ。自由と、お前を守るために使いなさい、とな」
最初のコメントを投稿しよう!