第二章

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*** 「ーー申し訳ありません」  マースに頭を下げ、ダルスは唸るように謝罪した。  フィレンツェで、みすみすライアンを逃がしてしまった事で、マースは怒っているに違いない。  自分の進退ーーいや、生死を危ぶみ、ダルスはただ頭を下げた。  無防備な首筋に、マースの刃が降りかかってくるのではないかーーと警戒したが、かけられたのは柔らかい労りの声だった。 「いいや、ご苦労だったね。頭を上げなさい」 「は・・・・・・」 「それで、謎のヴァンパイアは翼を持っていたーーというのは、間違いないのか?」 「確かです」 「ふむ・・・・・・」  細長い指を口元にやり、マースは思案した。  男の目から見ても惚れ惚れする、優雅な所作。  自分が唯一忠誠を誓った団長に、ダルスは再び頭を下げた。 「現在、飛び去った方角にケルベロスを放ち、捜索しております」 「おや、ケルベロスを? 躾はしてあるんだろうね?」 「人間は襲うな、とだけ指令を出してあります」 「ああ・・・・・・それなら大丈夫かな」  あれは一種の戦闘兵器だ。  命令という名の行動プログラムに沿って、忠実に動く犬。  逆に、それ以外の行動はとれない。 「私もケルベロスを追って、ご息子をお連れしましょうか」 「君がいなくなったら、私の護衛は誰がするんだい?」  苦笑するマース。  この人に護衛など必要ないのではーーとダルスは思うが、口にはしない。  彼が必要とする限り、傍に控える。それだけだ。
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