170人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
***
「ーー申し訳ありません」
マースに頭を下げ、ダルスは唸るように謝罪した。
フィレンツェで、みすみすライアンを逃がしてしまった事で、マースは怒っているに違いない。
自分の進退ーーいや、生死を危ぶみ、ダルスはただ頭を下げた。
無防備な首筋に、マースの刃が降りかかってくるのではないかーーと警戒したが、かけられたのは柔らかい労りの声だった。
「いいや、ご苦労だったね。頭を上げなさい」
「は・・・・・・」
「それで、謎のヴァンパイアは翼を持っていたーーというのは、間違いないのか?」
「確かです」
「ふむ・・・・・・」
細長い指を口元にやり、マースは思案した。
男の目から見ても惚れ惚れする、優雅な所作。
自分が唯一忠誠を誓った団長に、ダルスは再び頭を下げた。
「現在、飛び去った方角にケルベロスを放ち、捜索しております」
「おや、ケルベロスを? 躾はしてあるんだろうね?」
「人間は襲うな、とだけ指令を出してあります」
「ああ・・・・・・それなら大丈夫かな」
あれは一種の戦闘兵器だ。
命令という名の行動プログラムに沿って、忠実に動く犬。
逆に、それ以外の行動はとれない。
「私もケルベロスを追って、ご息子をお連れしましょうか」
「君がいなくなったら、私の護衛は誰がするんだい?」
苦笑するマース。
この人に護衛など必要ないのではーーとダルスは思うが、口にはしない。
彼が必要とする限り、傍に控える。それだけだ。
最初のコメントを投稿しよう!