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「それでは、私はこれで失礼致します。隣の部屋に控えておりますので、何かあればお呼び下さい」
「分かった、ありがとう」
何度目かの深いお辞儀をして、ダルスは後ろへ下がろうとしたが、
「ダルス」
頬杖をついたマースが、わずかに表情を厳しくして訊ねてきた。
「あの方の傍に、エルヴィスはいたかい?」
「いいえ、いませんでした。私も一緒に居るものと思い、警戒していたのですが・・・・・・」
「あいつがいない?」
何か訝しむように、マースは眉根を寄せた。
「いつも殿下にくっついていたのに、なぜだろう」
「もしや別行動をしているのでは?」
「それはない。仮に別行動をしているなら、殿下を守るために、あいつは派手に暴れ回って注意を引こうとするはずだ」
「確かに・・・・・・奴はご息子の騎士、でしたね」
「ああ。本当に面倒な奴だよ」
マースが深いため息をつくと、彼の腰掛けていたソファの後ろから、"新しい"ルーカスが顔を覗かせた。
「団長、お話終わりました?」
「おや、すまないね、ルーカス。もう終わるよ」
ルーカスの頭を撫でるマース姿は、子を可愛がる父にしか見えない。
気持ちよさそうに頭を撫でられていたルーカスは、シャツのボタンを一つはずし、胸元をはだけさせた。
「そろそろご飯の時間でしょ? いつでもいいですよ」
「もうそんな時間か。ーーじゃ、後は頼んだよダルス」
マースの目は、すでにルーカスへーー正確には、ルーカスの首筋に向いていた。
もう自分を見ていない。
静かに退室しようとしたが、不意にルーカスが艶めいた声を漏らした為、マースの方へ視線を向けてしまった。
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