第二章

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 肉食獣が、子鹿の喉笛に食らいついているようなーーそれでいて一枚の絵画のように美しい構図。  ルーカスの細い腰を抱き寄せ、無意識に背をそらせて快楽から逃れようとする彼を、マースはもう片方の腕で拘束していた。  真っ白な犬歯が、ルーカスの首に深く突き立てられている。  痛いに決まっているのに、ルーカスは天井を仰ぎ、人目もはばからず声を漏らしていた。  ーーいや、ダルスが目に入っていないのだ。  最早、マースはルーカスを、ルーカスはマースしか見ていない。  少しでもルーカスが痛がれば、マースはすぐ吸血対象者のシャツの中に手を滑り込ませ、あやすように子鹿の体を撫で回す。  そのたびにルーカスは喘ぎ、悦んでいた。  そこだけ世界が違っていた。  見入ってしまっている自分に気がつき、ダルスは慌てて部屋から出た。  慌てていても、彼らだけの世界を邪魔しないよう、静かに。  閉じた扉に背を預け、跳ね上がる心拍を感じる。  吸血しているときのマースは、ヴァンパイアの顔をしていた。  側近であるダルスは幾度となく、彼が吸血する姿を見ている。  そのたびに胸が異様なほど高鳴る。  この気持ちがいったい何なのか分からず、持て余すばかり。  皮膚の上からでも分かるほど暴れ回っている心臓に手をおくと、ひときわ大きなルーカスの嬌声が、背後の部屋から漏れてきた。  何度も"団長"と呼んでいる。  自分が部屋を出てから、マースはどんな顔で彼を抱き、血を吸っているのだろうーー。  本当に抱きたいのは、あの青年だけだろうに。  スペアに彼を重ねて、抱いているのだろうか。  それとも、本当にただの食事なのかもしれない。 「・・・・・・どちらでもいいか。俺には関係ないことだ」  そう、自分を律した。  今成すべきはーー、 「団長の悲願達成。そして、ヴァンパイアの根絶」  成し終えるまで、孤狼は他に気を取られることを許されない。
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