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適当に口をついた言葉。蒼の瞳が少しだけ揺らいだのを、凪は見逃さなかった。取り付く島もなかった様子が一変して、蒼は口ごもる。銀盤にぴしりとヒビが入るように、罪悪感が滲み始めているのが凪にとっては愉快だった。
「と、とにかく、できるようになるまで練習しろ」
「蒼先生が教えてよ」
「なんで俺が……」
「早く。昼休み終わっちゃう」
蒼は丸く口を開けて、意味がわからないとでも言いたげに視線を泳がせていた。最終的には人懐っこくて自分のペースに持ち込むのが天才的に上手い凪に丸め込まれ、折れてしまったのだった。
「プレーンノットでいいな?」と不機嫌そうに呟いて、蒼が席を立つ。凪と向き合い、一つひとつ丁寧に説明をしながらネクタイへと手をかけた。
「蒼先生ってさ」
「なんだよ」
「怖いし雰囲気あるけど、こうやって見たら意外と小せえんだね」
「締めるぞ」
言葉の通りにネクタイで首を締め上げられて、たまらず凪は蒼の腕をタップした。質の良さそうな時計がはめられた手首もまるで女性みたいに細くて、ちゃんと食事をしているのかすら心配になる。
凪より8歳も歳上なのに、蒼の方が背丈だけではなく一回り身体が小さい。見下ろしているとなんだかそわそわして、凪は視線のやり場に困った。
「あれ?」
蒼が不穏な言葉の引き金を引く。てきぱきと動いていた手が止まる。
「ちょっとちょっと、大丈夫?」
「うるさいなっ。こっち側からだと難しいんだよ」
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