10 現実逃避

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はい。 当然ながら、この言葉には従うしかなかった。 私は、ノロノロと帰り支度をしながら 「送ろうか」という数人の申し出を丁寧に断り、 ちょっとフラつく体を引き摺るようにオフィスを後にした。 そして、まだ座席がたくさん空いている電車に揺られ始めて間もなく、 課長の言葉を反芻する。 実家かぁ…… 一人暮らしを始めて、2ヶ月あまり。 一度も実家には帰っていないし、このひと月くらいは電話もしていない。 だが、引っ越しをした時に、 漠然と、今度、実家に帰るのは暮れだと思っていたので、 何も違和感は抱いていなかった。 だが、こんな時くらい実家を頼ってもいいのかもしれない。 お母さんのご飯なら、食べられるかな。 ぼんやり考えていたら、なぜか訳もなく涙が浮かんできた。 はぁ、ダメだ。私、なんか壊れちゃったのかな。 涙を呑み込んで吐息をつき、 それでも呑み込み切れない涙が零れそうになって、慌てて俯く。 それと同時に、座った足の上にポタリと一粒、涙が落ちた。
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