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はい。
当然ながら、この言葉には従うしかなかった。
私は、ノロノロと帰り支度をしながら
「送ろうか」という数人の申し出を丁寧に断り、
ちょっとフラつく体を引き摺るようにオフィスを後にした。
そして、まだ座席がたくさん空いている電車に揺られ始めて間もなく、
課長の言葉を反芻する。
実家かぁ……
一人暮らしを始めて、2ヶ月あまり。
一度も実家には帰っていないし、このひと月くらいは電話もしていない。
だが、引っ越しをした時に、
漠然と、今度、実家に帰るのは暮れだと思っていたので、
何も違和感は抱いていなかった。
だが、こんな時くらい実家を頼ってもいいのかもしれない。
お母さんのご飯なら、食べられるかな。
ぼんやり考えていたら、なぜか訳もなく涙が浮かんできた。
はぁ、ダメだ。私、なんか壊れちゃったのかな。
涙を呑み込んで吐息をつき、
それでも呑み込み切れない涙が零れそうになって、慌てて俯く。
それと同時に、座った足の上にポタリと一粒、涙が落ちた。
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