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だが、口を突いて、たまたま出た方便の嘘だ。
もちろん、私に答えようなどある訳もない。
すると、視線を落とし沈黙している私の頭上に、
福澤の静かな声が更に聞いてきた。
「じゃあ、彼に彼女がいるっていうのは知ってたの?」
その問いに、私は、先輩の誤解を解こうと咄嗟に視線を上げた。
「本当に、二股とかじゃないんです。
先輩は、色々事情があって彼女さんとは続けられないって
この週末にも、ケジメをつけるつもりで……」
ねぇ、豊田さん。
私の言葉尻に重なるように言った福澤が、短く言葉を切る。
そして、少しの躊躇いの後で静かに言った。
「あのさ、今回の企画だけど。もしかして、あの先輩にアドバイスもらった?」
「えっ……?」
唐突な話題の変化に、私は一瞬、言葉に詰まった。
だがそれを、彼は図星と勘違いしたらしい。
「豊田さん。ちゃんと彼から好きって言われた?」
「それは……」
言い淀んだ私の言葉の後に、小さく沈黙が挟まれる。
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